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鉄腕アダム005

暗い闇の向こう側から20万kmで地球にやってくる虹色の巨大な蝶。彼らはどこからやってきて、なぜ地球を目指すのか。蝶は一体何匹いるんだろう。もし蝶をすべて殲滅したら、僕はどうなるんだろう。

「アダム、あがっていいぞ」
イワンの声。

世界最速の量子コンピュータ、エシュの作り出した仮想の宇宙空間から帰還する。ゆっくりと目を開けると、僕は広い部屋の白い大きな椅子に座っている。体中からいろいろな管がのびて、まるで病人のようだ。

「体中からいろいろな管がのびて、まるで病人のようだ」
誰に言ったわけではなく、広い部屋の硬い壁が、僕の声を反響させる。

「君が死んだら地球も死ぬ、病んでいるのは地球かもな」
扉にもたれ掛かってイワンはボールペンをまわしている。
地球は静かな死を望んでる、ふとそんな言葉が頭をよぎる。
「巨大な蝶は死化粧をしに来ているのかもしれない」

イワンはまわしているボールペンを胸のポケットに挿す。
「まだ死にたかないさ。生と死は一枚の薄っぺらい紙のようなもんだ。」
イワンは一枚の紙を天井の明かりにかざして目を細める。
「このプリントみたいにね、死の裏っかわに生が透けて見える。逆もまたしかり、裏返すと生の裏っかわに死が透けて見える。」
プリントをくしゃくしゃと丸めてゴミ箱へ投げ入れる。
「死を見つめる眼差しはつまり生を見つめる眼差しさ、たまに見ないと自分が生きていることを忘れる。人間の悪い癖だ」

「よくわからない、僕には」

イワンは眉間を掻いている。
「アダムは死んでも僕たちのバックアップデータが君を目覚めさせるからね、迷惑かもしれないけど。地球を、人類を救えるのは君しかいない。」

「僕は生きていると言えるのかな?もしかしたらエシュの作り出した仮想現実の中の住人かもしれない。」

イワンはポケットに手を入れて天井を見ている。
「よくわからないね、僕には」

「冷たいね」

「僕だって自分のこの現実が現実であることを証明できないよ。僕の現実はアフリカの蝶が見る一瞬の夢なのかもしれない。否定できない。でも結局どこにリアリティを感じるかだ。人間を形作っているものは必ずしも現実に根ざしたものだけじゃないさ。架空の世界の架空のヒーローが世界に向けて叫んだ言葉が僕の現実を強くすることだってあるさ。」

「否定できないね」

一瞬の沈黙の後どちらかが吹き出して、僕らは笑う。

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