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鉄腕アダム 003

「アダム、そろそろだ」

わかっている、いつものイワンの声。いつもの青い光、いつもとかわりない静寂。

視線の先の深い闇から時間通りに巨大な蝶が姿を現し、一瞬で距離は縮まる。いつものように直進してくる蝶に鋼鉄の拳を振りかざす。

いつもと違う、腕が重い。

蝶は僕の腕をすり抜ける、僕は反転し蝶を追いかける。いつもと違う、体が重い。手が届かない、口の中に嫌な味が広がる。全身を無数の針で刺されているような錯覚に陥る。届け、届け、届け届け届け届け。

蝶との距離が縮まらない。基地の人たちの顔が脳裏に浮かぶ、イワンの顔が浮かぶ。イワンの恋人の顔も、天馬博士の顔も。

「失敗しても誰も怒らないさ、そのときは人類は跡形もなく消えている。」
いつかのイワンの笑えないジョーク。

「イワン、間に合わない!!僕は」

蝶は地球を貫いて、地球は一瞬の閃光とともに消えてしまう。本を閉じるように、あとかたもなく、あるべき地球が、青い光が。

僕は

僕は、どうしたらいい

宇宙空間で座標を失い、静止しているのか、移動しているのかさえわからない。鋼鉄の腕がガタガタと震える。ねえ、誰か応答して。お願い。僕は失敗してしまったんだ、どうしたらいい?誰でもいいから声を聞かせて。僕はどうしたらいい?失敗してしまったんだ、どうしたらいい?ねえ誰か教えて。ねえ誰か、お願いだから……。

主を失った人工衛星が僕を見つめる。

僕は泣いている。泣いていることに気がついて、これは夢だと気がつく。僕は涙を流すことができないから。

目が覚めると部屋は暗く、早く朝になればいいと思う。腕の震えがおさまらない。

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