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鉄腕アダム 002

「よう、遅かったじゃないか」

痩身で長身でグレイの髪のグリーンアイズ。彼をみると昔読んだオオカミ王ロボを思い出す、ロボではなくロボを裏切ったしたたかなナンバー2を。彼の名はイワン、僕のメンタルメンテナンスを担当している。心臓が右にある先天的な奇形、本職は人工脳の研究者だ。人工衛星に手を振るように言ったのも彼だ。

「待ち合わせをしてた覚えはないよ」
イワンはタバコをもみ消し僕を見ないで笑う。
「なんだ、一発でしとめられなかったから機嫌が悪い?」

そうかもしれない、僕は答えない。

「蝶に接触するといつも不思議な気持ちになるんだ。うまく説明できないけど。」
イワンは顔を上げる、口だけで笑っている。
「蝶の意識に触れたのさ。あのでっかい蝶は宇宙の意思だ、個人的見解」
彼は本音ともつかないジョークを言う、彼の癖だ。
「あの蝶が宇宙の意思なら宇宙は人類を絶滅させるつもりだ」
「人類が絶滅しないようにするのが人類の意思さ、そしてそれが君」
彼の笑顔につられて僕もつい笑ってしまう。

「それも個人的見解?」
「なんだろ総体的見解っていうのか?言葉を知らないんでね」

「蝶ってなんで地球にやってくるんだろう?」
イワンはタバコに火をつける。

「……飛んで火にいる夏の虫」
イワンは煙を吐き出しながらだらしなく笑う。

「それは蛾だよ」
「蛾がなんで火に飛び込むのかは、実はよくわかってないんだ。何十万年も自分の中のプログラムに従って生きてきた蛾に、たかだか一万年前にぽっと出た人類が火を使いはじめた。結果蛾は火に飛び込んで焼け死ぬこととなった。」

「なら蝶は太陽に飛び込むべきだ」
「たとえ話さ、火に当たるもの、一体何かは知らないけどそれが蝶を呼び寄せてる。」

「個人的見解?」
「ああ、個人的見解」

火星へ飛び立つ宇宙船が白い雲を引いている。火星ではテラフォーミングが進み、火星のコロニーでは移民はもちろんのこと2世、3世も生まれていて、火星人という言葉が差別用語といわれたのは昔の話だ。

「火星って行ったことある?」
「ないよ、帰ってきたらリハビリが大変だ。」

火星は重力差のため地球に戻ってきた場合リハビリが必要になる。環境汚染、経済不安、戦争、異常気象に伴う飢饉と疫病。死にかけの地球から希望の火星へ、そのほとんどが片道切符だ。

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